コミダス~キーワードで学ぶ現代マンガの基礎知識
2006-11-30T21:46:54+09:00
tomoyu_suzuki
【著者:スズキトモユ】現代を象徴するキーワードを掲げ、話題の作品を取り上げていきます。
Excite Blog
いい話だいすき!『君に届け』
http://mangaword.exblog.jp/6119883/
2006-11-30T06:45:00+09:00
2006-11-30T21:46:54+09:00
2006-11-30T06:45:45+09:00
tomoyu_suzuki
いい話
今回のキーワードは「いい話」。すでに現代社会だからどうとかいうキーワードでもない気がしまするが、いい話はいい話! 問題ありません!
いやあ、最後にこんな作品が紹介できて、本当によかったよかった。えっ、最後……??
『君に届け』(椎名軽穂/2巻~/集英社・マーガレットコミックス)
呪いの日本人形似の外見から「貞子」呼ばわりされてる黒沼爽子。座右の銘は「一日一善」。見た目とは裏腹に、けなげで前向き、感動屋さんな性格なのに、やっぱり怖れおののかれる毎日。そんな爽子の憧れの人がクラスメイトの風早翔太、きさくで爽やかな性格から誰にも好かれる人気者だ。風早との出会いが引っ込み思案な爽子を少しずつ変えていく……。
いい話だいすき!
なぜなら、いい話はいい話だからだ!
いい話っぽく帳尻を合わせてみせた何かと、本当にいい話はちがうよ、たぶん。
ということで『君に届け』。超絶的に陰気なオーラとどっからか沸いて出る霊的なアトモスフィアにより、硬い硬い壁ができちゃってる女の子が、爽やか男子との交流をきっかけにして、クラスメイトたちと少しずつうちとけていく様を描いていくお話なんですが、あっさりラブ方面に流れないところがとてもよい。よすぎる。
クラス全員参加の肝だめしの夜をきっかけに、風早くんとの距離が近づいて、ふたりの関係は進展して……だけ描かれてたとしても悪くはない、悪くはないんですが、この『君に届け』はそんなふうには描いてないんですよね。ヤンキーでアネゴ肌、爽子さんとは水と油っぽいふたり、吉田さん矢野さんコンビとの友情を育んでいく友情パートが素晴らしくよいのでした。
紆余曲折を経て自分の心をふたりに届かせる爽子。
©椎名軽穂『君に届け』2巻 168p /集英社
これは考えてみれば当然のことで、ラブがうまくいったからといってすべてが解決するはずもなく、ラブはラブ、友情は友情でそれぞれ重要だからな! タイプがちがいすぎるがゆえに互いの考えが量れない爽子と吉田&矢野コンビがいきちがいや思いちがいで悩んだり戸惑ったりしながら、自分の思いを相手に届かせるあたり、とてつもなく感動的であります。まさに『君に届け』ですね。
その種の葛藤が生じない風早くんとのラブ関係よりも、何度も何度も不器用なアプローチを繰り返しながら心の距離を近づけあっていく友情関係のほうがむしろよろしかったりして。描いている椎名軽穂自身、吉田さん矢野さんコンビがどんどん好きになっていってるのがわかるのがええですね。登場人物たちもぶわぶわ泣きますが、読んでる人も涙腺爆発ですね、これは。ピュアホワイトのこころだー。
この『君に届け』、少女マンガなラブはとくに必要ございません、な貴兄にも胸を張っておすすめできる珠玉の一品でございます。
ラストにこんないいお話を紹介できて、よかったよかった。ということで、この連載も今回で最終回を迎える事となりました。
またどこかでお会いしましょう!
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やはり榎本俊二は凄すぎる 『えの素トリビュート』
http://mangaword.exblog.jp/6115258/
2006-11-29T10:47:00+09:00
2006-11-29T12:06:45+09:00
2006-11-29T10:40:26+09:00
tomoyu_suzuki
トリビュート
ということで連続更新(なぜ?)。
今回のキーワードは「トリビュート」。『ブラックジャックALIVE』でも『超こち亀』でも『かりあげくんトリビュート』でもなく、なぜ今『えの素』なんだ? でも、やっぱり天才だよね、な、『えの素トリビュート』を取り上げました!
『えの素トリビュート』(榎本俊二/講談社)
本能の赴くままに行動しまくるファンキー親子、前田郷介とその息子、前田みちろうを中心としたゆかいな仲間たち(=変態)がチンコとウンコを全開にお送りする超快作『えの素』他薦傑作集プラス、吉田戦車、小田扉、鶴田謙二、山下和美、寺田克也、岩館真理子らが大参戦! 果ては萩尾望都、メビウスまで、『えの素』ワールドの暴走は止まらない!
トリビュート!
マンガとトリビュート企画の相性はよろしい。トリビュート企画で成功しそうなものって、音楽とマンガくらいじゃないですかね。これはメディアの特性に起因していて……なんてもっともらしい物言いですが、歌声や音、画など、構成パーツのほんの一部分を抜き出しても、それが何だと理解できること、そして個人的なメディアであること。このふたつが重要なんじゃないかと思っております。
芹沢直樹、たがみよしひさ、柴田昌弘から、青池保子、高口里純、北見けんいちまでが手塚治虫の名作を競作した『ブラックジャックALIVE』、許斐剛、矢吹健太朗、松井優征ら現役ジャンプ作家から水島新司、望月三起也、さいとう・たかを、里中満智子らマンガ界の大御所が顔を揃えた連載三十周年記念『超こち亀』、雑誌企画ながら豪華なラインナップであった『かりあげくんトリビュート』まで、いままでにもトリビュート企画は数ありました。
で、今回とりあげるのは『えの素トリビュート』。功労賞的な意味合いもなく、ただ純粋に『えの素』という傑作に対するトリビュート企画であります。そしてそれは榎本俊二の才能を再認識させるものでもありました。まともにやったらこの天才には勝てません。天才に対するトリビュート(捧げもの)という意味においては、まさにトリビュートの名に相応しい好企画といえましょう。
他薦傑作選(吉田戦車)より。葛原さんはやはり素晴らしい。もっといいカットは勿論あるけど、いかんせん載せられない。
©榎本俊二とゆかいな人びと『えの素トリビュート』 18p /講談社
さて、『えの素』トリビュート。
『えの素』を御存じないかたにその魅力をどうお伝えすればよいのでしょうか。あまりにもあんまりな画ばかりなんで、引用画像の掲載が可能なのかも(Exciteブックス的な)わかりません。どうすればいいのか正直頭を抱えますが、とにかく言えることは、原始的なリピドーの迸り、物語展開の理屈じゃなさ、ウンコ、チンコ、そして生と死を描いたあらゆる表現の頂点に『えの素』が立っていることは間違いのないことです。このジャンルでは適うもの無し。ここにあるのは死屍累々たる敗北の記録であります。オットセイにロールユーしてる『やる気まんまん』横山プロダクションくらい下品に腰が据わってないと戦えません。(下品の表現方法について上野顕太郎は反省すべし)上條淳士など、Tシャツデザインに逃げております。
「がんばったけどかないません」面子の中、驚いたのが耕野裕子と萩尾望都。『えの素』エッセンスを完全再現したうえで榎本家ネタノンフィクションを描いてる耕野裕子はさすが実の奥方、萩尾望都ワールドに『えの素』空間を現出せしめた萩尾望都はいささか器がでかすぎると思われました。
耕野裕子描く『えの素』。すごい再現力。さすがは奥方。
©榎本俊二とゆかいな人びと『えの素トリビュート』 222p /講談社
『えの素トリビュート』をきっかけに、『えの素』未読などという不勉強極まる輩は反省しまくったうえで入手すべく尽力すること。でも売ってないんだ……と思ったら、Amazonほか、まだ普通に買えるじゃん! とにかく買うこと、読むこと。
イエーイ!!(バッバッ) ロールミー! ロールユー!
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ガイキチヒロイン・デスゲーム 『未来日記』
http://mangaword.exblog.jp/6109521/
2006-11-28T10:00:00+09:00
2006-11-28T09:48:15+09:00
2006-11-28T07:45:42+09:00
tomoyu_suzuki
デスゲーム
いつの間にやらもうすぐ12月ですね。うー。
さて、今回のキーワードは「デスゲーム」、取り上げる作品はガイキチヒロインが衝撃的な生き残りゲーム『未来日記』であります。
『未来日記』(えすのサカエ/2巻~/角川コミックス・エース)
他者と交わるのに臆病な中学二年生・雪輝(ゆきてる)は、さしたる目的もなく携帯で日記をつけ、空想の世界で時空王「デウス・エクス・マキナ」と遊ぶ孤独な毎日を送っている。
ある朝、打ったはずのない日記が携帯上に現れる。それは未来を記した予言の書であった……。生き残りが神の座を継げる「未来日記」所有者たちのデスゲームが幕を開ける。
苛めによる自殺問題がテレビや雑誌を賑わせ、「少年少女たちよ、自殺するくらいなら復讐だ!!」と呉智英もブチかます昨今。まさに学園はサバイバル、教室の若人たちはデッド・オア・アライブの綱渡りを余儀なくされる現実であります(注:マスメディアに踊らされているわかりやすい例)。
そんな世情を反映してか、生き残りをテーマにした作品がここ数年目立ってきてる気がします。すでに今は昔の印象があるやもしれませんが、中学生クラスの殺し合いを描いた小説『バトル・ロワイアル』は映画・漫画化もされ、バカ売れしましたし、無人島生活の中で最も使えない人間を追放していくアメリカのバラエティ番組『サバイバー』は日本版も作成されました。同様に多数決による追放をルールに組み込んだクイズ番組『ウィーケストリンク』は世界中で大ヒットしています。
ただ、出場者同士の足の引っ張り合いを直に見るのが忍びなさすぎるせいか、日本ではウケが良くなかったようで、ならばフィクションだ! と、福本伸行『賭博黙示録カイジ』の限定ジャンケン以下続く生き残りギャンブルがあったりするような気がします。気分的にはここらすべて地続きじゃないかと思うんですね。
そして大場つぐみ+小畑健『DEATH NOTE』の大ヒット。ライトとLの壮絶な知力戦が、少年漫画とは思えないほど理屈っぽく展開していたのにもかかわらず、あれほどまでに好評を博したのは予想を超えていました。読者の予想を裏切るストーリーテリング、流麗な画などヒットの要因はたしかに存在しますが、過去のジャンプ漫画とは一線を画した作品だったからです。
やはり、能力をフルに生かした生き残りバトル、という物語を世の人々は求めているんじゃないでしょうか。
前置きが長くなりましたが『未来日記』。
きわめて平凡な男子・天野雪輝(あまの・ゆきてる)が、空想の産物のはずだった時間と空間の王「デウス・エクス・マキナ」から、未来を知ることのできる携帯を手渡されるところからゲームの幕は開きます。
雪輝の日記は「無差別日記」。とりとめもなく日々起こったことを日記として携帯に打ち込んでいた雪輝の筆致そのままに近い将来起こることが表示されます。日々のトラブルを避け、上手く立ち回るようになった雪輝の前に気になる存在が。彼女の名は我妻由乃(がさい・ゆの)、成績優秀で美人、学園中の憧れの的、そしてもうひとりの「未来日記」所有者だった。由乃の日記は「雪輝日記」、雪輝の未来を10分刻みで把握する愛の日記だった。げー! ヒロインがストーカーですか!
内容の異なる未来予知をする12人の「未来日記」所有者たちが、自らの能力をフルに生かした生き残りゲームをするというこの作品のもうひとつの魅力といえるのがガイキチヒロイン・由乃さんでしょう。
美人だし、自分のこと好いてくれてるし、で通常ならば万々歳なんですが、この由乃さん、いかんせん怖ろしい。雪輝のためならたとえ火の中水の中どころでなくその身を投げ出してみますが、下手に受け入れたりするととんでもないことになりそうな狂気を秘めたヒロインさんなのでした。男女カップルは成立してても意志の疎通がいまいち図れなさそうなところが登場人物を単純に敵・味方に分類できなくしていて面白いですね。『DEATH NOTE』におけるライトとミサミサの関係もなんか凄いと思ったけど、正常・異常の境界をやすやす飛び越えそうなボルテージは由乃さんに軍配が上がりますね(というか、実際……)。
爆弾テロリストだったり新興宗教教祖だったり、由乃さん以外の女子キャラもマトモな人間只のひとりもいませんが、ガイキチヒロインの系譜についてもいずれ書いてみたいと思います。西尾維新の戯言シリーズ、竜騎士07『ひぐらしのなく頃に』など、流れはあるはずなので。
まさに、いまだから出てきた『未来日記』という作品をとりあげてみた今回でしたが、最後に由乃さんの素晴らしいカットをご紹介して〆としましょう。
爆弾テロリスト・雨流みねねさんもタジタジの迫力。©えすのサカエ『未来日記』 167p /角川コミックス・エース
うーん、すごいですね。
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兄が○すぎる!『○本の住人』
http://mangaword.exblog.jp/6090022/
2006-11-27T10:32:00+09:00
2006-11-27T10:37:40+09:00
2006-11-24T14:42:34+09:00
tomoyu_suzuki
コラム
えーと今回は、なんというのか、お世話になりっぱなしなkashmirさん初単行本を御紹介。
都会の片隅にひっそりと肩を寄せ合うふたりきりの兄妹を主人公にしたハートフル4コマのような気もちょっとだけする『○本の住人』を取り上げました!
『○本の住人』(kashmir/芳文社/1巻~)
蓼科のりこは小学四年生。早くに両親を事故で亡くし、絵本作家の兄とふたり暮し。(後先考えず大人買いしまくる兄のせいで)生活は楽ではないけど、(ありえないレベルのボケをかますクラスメイトたちにツッコミを入れたりしながら)けなげに日々を生きています!
「前立腺肥大は切らずに治せる!!!」
兄というのは難儀なもの。
世の妹たちはみな、骨身に染みて実感していることでしょう。
雛鳥には初めて目にした動くものを自分の親だと思い込む習性があるといいますが、妹たちは初めて目にした動く兄の存在によって、男がいかなるものかを認識します。
この妹インプリンティングはなぜだかプラスに働くようで、どうにも冴えないそこらの兄さんが、刷り込み効果によって「カッコいいお兄ちゃん」なる幻想の衣を身にまとってみたりします。これぞお兄ちゃんイリュージョン、前途有望な妹さんの男性観を狂わせ人生を見誤らせる、世にもいらない魔法です。
あまねく妹たちが兄の魅力にメロメロになりて、ほかの男子に鼻もかけなくなったら、少子化はますます進み、それどころかここには書けないたいへんなことがいろいろ起こって、人類の未来は閉ざされるでしょう。げに怖ろしきはカッコいい兄。政府はカッコいい兄禁止令を発令すべきです。
また、ぶっちゃけ兄がアレだった場合もやっかい極まる。「あれ? うちのお兄ちゃん、ちょっとアレな人かも……」、「マジ、キモい」、「おい、○△(名字)、コンビニでパン買ってこい」の三段階を経て打ち砕かれる兄の幻想は、思春期女子の異性に対する憧れもついでに木っ端微塵にしたりして、どうにもこうにも困ります。性欲を持て余し、不自然にごそごそする輩が(しかも対象は二次元)同じ屋根の下に住んでたらそりゃあイヤですね。汚物は消毒だ! 焼き払え!!
つまり、妹にとって兄という存在は真実カッコよかろうが、どうにもアレだろうが、難儀なものなのであります。
今回紹介するのは、kashmirの初単行本『○本の住人』。
しっかりもので苦労性な小学四年生・のりこと、児童向けカルト絵本作家(どんなだ)であるのりこの兄のふたりを中心にした(たぶん)ハートフル4コマであります。
長々と兄について書いてきたことからもおわかりかもしれませんが、のりことのりこの兄、ふたりの関係が物語のポイントであります。
幼くして両親と死別したのりこは、兄とふたりきりの生活。オタクな兄とつつましやかな生活を送りながら(理由は兄がプラモの大人買いするから)ときに兄と自分のあいだにココロの絆を感じとったりする。たいていそれは勘ちがいで、多分にアレすぎる思考の兄にツッコミ入れなきゃいけなかったりするけど、たまに真実だったりする。その絶妙なはぐらかしがkashmirセンスだなあとしみじみ感じ入ったりするのでした。
たぶんにアレな兄のせいで、のりこの生活は楽にならない。
©kashmir『○本の住人』 45p /芳文社
ほか登場人物も、金髪ツインテールのバーサク少女・ちーちゃんや、見た目無難キャラながら実はけっこうそうでもない同級生・みかちゃん、度を超えすぎた天然ボケ担任・さなえちゃんなどなど、ボケにボケてボケ倒すキャラばかり、なんというのか、のりこちゃんツッコミおおわらわであります。
わりかし狂騒的な展開でありながら、どこか程よい距離感を保ってるように感じられるあたりもkashmirらしいところかも。行動はとびきりの奇人であるのりこの兄が、キャラとしては妙に印象が薄く、読者とほど近い存在のように感じられるところが面白い(兄には名前が与えられていないところにも注目)。つまり、ツッコミ役であるのりこと、凶悪狂人ボケであるのりこ兄のふたりがともに視点人物になっているわけです。
読者は、眼鏡な小学四年生のりこちゃんを愛でながらアレなオタクネタを繰り広げ、同時にダメダメな兄にツッコミを入れているのでした。批評性というとなんだかですけど、要はそういうことですよね。
電撃大王連載中の『百合星人ナオコサン』第1巻も12月9日に発売(初回限定版は主題歌CD付き)。可愛らしい絵柄、特異な言語感覚から繰り出されるシュールでオタクなネタにやられた方はこちらもチェックしてみること。
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この男は本気だ!『坂本タクマの実戦株入門』
http://mangaword.exblog.jp/5931988/
2006-10-26T07:54:00+09:00
2006-10-27T07:27:07+09:00
2006-10-26T07:54:16+09:00
tomoyu_suzuki
コラム
今回は珍しく実用漫画。坂本タクマの新境地『坂本タクマの実戦株入門』を御紹介しましょう!
『坂本タクマの実戦株入門』(坂本タクマ/白夜コミックス)
これからはパチンコじゃなく、株だ!
坂本タクマ、2年ぶりの単行本は、いちばんわかりやすく、いちばんドラマティックな、株で勝ち続けるための株入門漫画。
目指すは生涯10億円! 気分次第の材料取引きから、自らプログラミングした「坂本システム」によるシステムトレードまで、男の本気がかいまみえる一冊です!
世はなべて株ブーム、らしい!
らしい、というのは実感がないからで、たしかに最近「中国株」「注目銘柄」などの株関係タームを新聞、雑誌などの見出しでやたら目にするなーとは感じるし、ライブドア、村上ファンドやジェイコム株のごたごたもニュースやワイドショーであれだけ取り上げられてりゃ目に入ってきて、でも何が起こったかはよくわかってません。どうも自分のいる世界の出来事とは思えないんですね。
恥ずかしながら株の知識はぜんぜんなくて、「ローソク足? それどんな妖怪?」などと聞き返してしまいそうな体たらくであります。
そんな自分が今回とりあげるのが『坂本タクマの実戦株入門』。株知識皆無の男にも多大な感銘を与える一冊だったのでした。
坂本タクマといえば、強烈ルールの学生寮麻雀漫画(回転寿司方式による100人麻雀が印象的)『ぶんぶんレジデンス』の2巻がついに出なかったり、コミックバンチ連載の『屈辱er大河原上』がいつまでたっても2巻が発売されない屈辱……だったり(のちに三才ブックスより新版として2巻まで発売された。が、3巻は……)、いつのまにか麻雀漫画前人未踏の長期連載になってる4コマ『シンケン君』も、単行本にならなかったりと、とにかく単行本が出ない人という印象があります。なぜだ、こんなに面白いのに……。
そんな坂本タクマが描く株漫画。ライブドアを全力買いして体中に矢が刺さったり(『ぶんぶんレジデンス』の矢鴨くんですね)、「損切りのタイミングを逃し、自分でもどうしたらいいのかわからないレベルまで下がってしまった屈辱、早めに切った銘柄が爆上げしてしまう屈辱」とか、なりそうなもんですが、なりません! そんなことしたら即破産で連載終了ですがな。
この『坂本タクマの実戦株入門』。きわめて実践的な、地に足がついた株入門漫画だったのでした。タイトルに偽りはなし。
左:2003年、なんとなくの材料取引きから……。
右:2005年、「面白さ」を完全に捨て、利益の追求へ。
©坂本タクマ『坂本タクマの実戦株入門』 40p 180p/白夜コミックス
2002年の11月、『屈辱er大河原上』単行本の印税を元手に、坂本タクマは株を始めます。CS放送のマーケット情報をソースに、上がりそうな銘柄をなんとなく買い、株価の変動に一喜一憂する日々を送る坂本タクマでしたが、人生の転機をきっかけに(ネタバレになるので詳しくは書かず)、自らの取引きスタイルを変えます。面白さの排除こそが勝利への道だと。
株以前、パチンコにハマっていた当時の坂本タクマは、徹底した収支管理により、確実なプラスを叩き出す、ギャンブルにロマンを求めない派の人間だったのでした。そして、同じ方法論を株式投資にも適用します。
坂本タクマがたどりついた解答、それはシステムトレード。
株価の変動をコンピュータにより解析し、売り買いのタイミングを決定する手法です。
坂本タクマはデータ検証&収集のためのシステム「坂本システム」をオブジェクト指向言語「Ruby」にてプログラミングし、東証の全銘柄過去20年のデータで検証、プラスの数値を叩き出すことを確認した上で実際に運用し始めるのでした。な、なんと!
株価の変動に一喜一憂してしまう感情を必死に押さえ込み、システムの精度をひたすら高めていくストイックな姿勢、そしてまさに落書きとしか表現のできない画のギャップ。たいへん興味深い作品です。
本作品は「パニック7ゴールド」誌で好評連載中。最近もあいかわらず調子いいみたいで、坂本タクマがこのまま株漫画の人になってしまったらどうしよう、ともちょっと思ってしまうのでした。く、屈辱が足りない!
でも、シンケンに、勝ち続けていきそうではあるんですよね。坂本タクマ、まさに本気であります。
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連続殺人の捨て牌を読め!『迷彩都市』
http://mangaword.exblog.jp/5810785/
2006-10-05T10:42:00+09:00
2006-10-05T10:51:00+09:00
2006-10-05T06:42:45+09:00
tomoyu_suzuki
コラム
インタビュー記事は絶賛中休み中!(すみません、次回から掲載に延びました)
今回は麻雀漫画。『かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相』>の我孫子武丸と『PS-羅生門-』の中山昌亮がタッグを組んだ異色の捨て牌読みポリス・ストーリー『迷彩都市(カモフラージュ・シティ)』をご紹介しましょう!
『迷彩都市』(原作:我孫子武丸 作画:中山昌亮/竹書房近代麻雀コミックス)
右手の指をすべて切り落とすという猟奇連続殺人が発生、死体のそばには特注の麻雀牌が置かれていた。これは何をあらわすメッセージなのか? 元警視庁捜査一課の切れ者・大内は2年ぶりに現場復帰、後輩・堀井、交通課・森下とともに遊撃隊を結成、捨て牌殺人の謎を追う。
さてさて。麻雀というゲームをご存じないかたにご説明申し上げますと、牌を1枚取ってきて(ツモる、といいます)手持ちの牌の中から要らないものを捨てる。これを順番に繰り返し、手役を作った人間が和了(あが)り、最終的に点数が一番高い人間が勝つ。すごく簡単に書いてしまえば、麻雀とはこんなゲームであります。
場に捨てられている牌はつまり、その人にとっては不要な牌なわけで、一連の捨て牌をみれば、その人がどんな手役を狙っているのか、その傾向がつかめるというわけですね。
* 牌画作成にはizumickさん作成のパイガを使用させていただいております。
これは僕の実践譜なんですが、一・九・字牌が捨てられ、最後に待ちの周辺牌が飛び出すという典型的な断公九(タンヤオ)捨て牌。ちなみに、その時の手牌はこんな感じで、まさにそのまんまでした。
つまり、捨て牌には推理の材料が存在するわけですが、だからといってそれで事件を捜査するなよ! というお話がこの『迷彩都市』(原作:我孫子武丸 作画:中山昌亮)。連続殺人の捨て牌読みであります。
右手の指がすべて切り取られているという連続殺人事件が発生、死体のそばには特注の麻雀牌が。何かを意味した犯人からのメッセージだろうか?
高レート雀荘から連行された元・警視庁捜査一課刑事の大内は、後輩・堀井、交通課の森下と遊撃隊を結成、独自の捜査方法で事件にあたることになった……。
客観的に考えてみて、麻雀をしながら連続殺人事件の捜査ができるわけないんですが、そこは我孫子武丸マジック。関係者と麻雀をしてみたり、現場に残された捨て牌を検討したりしながら、じわじわと犯人を追い詰めていったりします。
また、そんなどう考えてもありえないストーリーを、地に足が着いたリアルな描写で読ませてしまうあたりは作画を担当する中山昌亮の手柄。
『迷彩都市』は、我孫子武丸×中山昌亮のタッグにより、まさに麻雀漫画でしかありえない、ある種の魔法がかかったポリス・ストーリーに仕上がっているわけなのでした。
現場に残された捨て牌から手役を検討。この超展開が麻雀漫画の醍醐味。
©我孫子武丸×中山昌亮『迷彩都市』1巻 182p/竹書房近代麻雀コミックス
『迷彩都市』を語るうえで忘れてはいけないのが、交通課婦警(あ、女性警官か)である森下雲雀(ひばり)さん。通称・ウンジャク。
捜査会議の手伝いに駆り出されただけのはずが、ホワイトボードで「何切る」させられた挙句に遊撃隊に無理やり参加させられた人なわけですが、眼鏡キャラとしての彼女のポテンシャルは激しく高い、高すぎです。清一(チンイツ)好きで牌譜マニア、勝負度胸もありのでほとんど完璧。超人気なのも頷けます。
ウンジャク先生。地味ながら素晴らしいポテンシャルを誇る眼鏡キャラ。
©我孫子武丸×中山昌亮『迷彩都市』1巻 85p/竹書房近代麻雀コミックス
事件の全貌が浮かび上っていき、重要参考人らしき人物の尻尾もつかめたこの第1巻、事件のクライマックスは12月発売予定の完結2巻にてとのことであります。全2巻と短いですし、ふだん麻雀漫画を読まない人でも手に取られてみてはいかがでしょうか。描き下ろしショートストーリーも収録されるとのことなので、ウンジャク先生ファンは単行本もぜひ!
諸般の事情により、一週掲載が延期となりましたが、次回からは『ゆびさきミルクティー』、宮野ともちかさんインタビューを掲載します! お楽しみに!]]>
孫は妹よりも強し!『世界の孫』
http://mangaword.exblog.jp/5768716/
2006-09-28T10:00:00+09:00
2006-09-28T11:53:10+09:00
2006-09-28T07:16:09+09:00
tomoyu_suzuki
コラム
インタビュー記事は絶賛中休み中!(次回からやります) 今回は、孫は世界を制す! SABEひさしぶりの新刊『世界の孫』をとりあげてみました!
『世界の孫』(SABE/講談社アフタヌーンKC)
鰊中学に転校してきたのは究極の「孫顔」少女・甘栗甘水。あまりにもお孫なその表情、立ち居振る舞い。新たなるカリスマの登場により、鰊中学に戦乱の嵐が吹き荒れようとしていた。
……なぜだ??
孫は妹よりも強し! ましてや委員長なんぞは!!
一時期12人とかいて、えらく高かった妹の出生率も落ち着いてきた昨今、妹、委員長、姉に代わる新たな刺客がわれわれの前にあらわれました。それが孫、『世界の孫』なのです!!
わりとひさかたぶりとなるSABEの新刊『世界の孫』。
鰊中学校に転校してきたのは甘栗甘水(あまぐり・あまみ)、ぷっくらとした頬、チコチコとした立ち居振る舞い、完璧なまでの孫顔を誇る彼女は、その風貌ゆえか老若男女問わず人々の寵愛を一手に引き受ける。究極の孫・甘栗甘水の参戦により、学園に戦乱の火蓋が切って落とされた! とか、そんなお話。いや、本当なのです。
「そんなもの もういらない!! 本物の愛に目覚めたんだ!!
肉欲を超えた愛……!!
お孫を愛でる心こそ無償の愛だ!!」
転校初日、甘栗甘水は、自分の中の「女」を武器に学園に君臨する女帝・担任教師のイカ子(無類のイカ好き)を孫パワーにより撃破。返す刀でお世話役を押し付けられた委員長の伝宝寺をその麻薬的とまでいえる孫振る舞いで廃人同様まで追い込みます。絶対的妹キャラとして学内の地位を不動のものとしていた日蓮尚和(にちれん・なおか)は、復讐の機会をうかがうイカ子先生と手を組んで……。
「孫」の脅威を感じる担任教師・イカ子。このころはまだイカイカしていない。
©SABE『世界の孫』1巻 11p/講談社アフタヌーンKC
そう、この物語は、「孫」なる新概念をひっさげてあらわれたカリスマの登場により、「お姉さん」や「妹」や「委員長」なる既存のキャラたちがそのレーゾンデートルをおびやかされるという、一種の概念バトルなのでした。
「孫」の理不尽さを訴える日蓮さん。「妹」の皮をかぶった超絶危険人物。
©SABE『世界の孫』1巻 54p/講談社アフタヌーンKC
ほんと、妹キャラ・日蓮さんのいうとおり、「孫」はズルい。寵愛の対象として、ほとんど理不尽なまでに強烈な存在なのです。
そんな「孫」の出現が、実際に血で血を洗うバトルに発展してしまうのが、いかにもSABEチック。いけない脳内物質が全開になってそうな登場人物たちのテンパった表情、邪悪で短絡的で快楽優先の思考、予想を遥かに上回るシュールで先が読めない物語展開が読者のハートをとりこにします。やっぱりこの人の描くマンガはブチ切れていてよいなあ。
やはり孫は何よりも強し! ところで今回、SABEのマンガにしてはブルマが出ませんね。ブルマはかせたら孫っぽくなくなるからかしらん。
次回コミダスは『ゆびさきミルクティー』の宮野ともちかさんインタビューをお送りします。Y・M・T! Y・M・T! お楽しみに!]]>
右往左往する自意識!『カラスヤサトシ』
http://mangaword.exblog.jp/5719548/
2006-09-21T11:00:00+09:00
2006-09-21T10:29:01+09:00
2006-09-20T05:49:13+09:00
tomoyu_suzuki
コラム
インタビュー記事は絶賛中休み中!(いや、やりますよ) カラスヤサトシの4コマ単行本、その名も『カラスヤサトシ』を紹介してみました!
『カラスヤサトシ』(カラスヤサトシ/講談社アフタヌーンKC)
月刊アフタヌーン誌の読者コーナー「愛読者ボイス選手権」にひっそりと咲く路傍の花がついに単行本化! どうしようもなくあふれ出す自意識が300本弱! 「アフタヌーンで一番最初に読んでます!」との自薦文も軽やかに、「あるある」と「いや、ない」の境界上を右往左往するヘタレ系なごみ4コマの決定版がここに誕生!
夜、布団に潜りこむと、今までの人生で自分がしでかした恥ずかしい事、失敗の記憶が脳裏によみがえり、身悶えして眠れなくなる、と書いたのは、遠藤周作だったろうか。
恥の記憶に煩悶し、眠れぬ夜を過ごす遠藤周作のような人間、考えても仕方ない事はさっぱり忘れてすやすや眠ってしまう人間、人には二通りのタイプがあるが、繊細だとか鈍感だとか、後ろ向きだとか前向きだとか、そんなことはさておいて、前者は一文の得にもなりません。無駄に身悶えしてるだけ。
人間とはたいがい不合理な存在であり、わけのわからない強迫観念やら意味の通らない自己衝動やらに駆られ、自分でもよく理解できないことをしでかす。また、そんな意味不明な行動も、自分の中ではきちんと正当化されてたりして性質が悪く、えーと、つまりどうしようもないですね。
そんな、人生の糧にもなんにもならない由無し事を4コマにして、きちんと糧にしてしまったのが、この『カラスヤサトシ』であります。でも単行本1冊に3年かかった! コストパフォーマンス悪い芸風!
編集者が出したお題に対して面白い答えを募るという、月刊アフタヌーンの読者ページ「愛読者ボイス選手権」があって、読者投稿でもないのにページの片すみに掲載されているのが、カラスヤサトシの4コマ。そのたいがいではない煩悶レベル(精神的にドM)に、読んでるこっちも身をよじります。
左:2004年秋 右:2005年6月より。中学時代も今も自意識のあり方に大差はない。
©カラスヤサトシ『カラスヤサトシ』/講談社アフタヌーンKC
さして親しくもない知人と出くわした際、知人の連れていた人々に「サイババを信じてる男」とだけ、紹介されたエピソード、書店で本についてくる結婚相談所のチラシは店員が人を選んで渡してるものだと思い込んでいたエピソードなどなど、右往左往する自意識がすばらしい。自意識暴走エピソードながらも、押し付けがましくないところもすばらしい。いい具合に肩の力が抜けているので、笑ったあとに気が楽になるのであります。
詰めに詰め込んだネタが300本弱、次の巻出るとしても2~3年はかかると思うんで、見かけたら買っておくこと。レジでお釣りを受け取る際、妙に不自然な行動を取ったりするとカラスヤチック(読めばわかります)!]]>
古谷実の生態観察劇場!『わにとかげぎす』
http://mangaword.exblog.jp/5682540/
2006-09-14T10:21:00+09:00
2006-09-14T10:20:29+09:00
2006-09-14T10:19:14+09:00
tomoyu_suzuki
コラム
インタビュー記事はちょっと中休み。今回は特別コラムとして、古谷実の最新作品についてとりあげてみました!
【あわててうかぶな深海魚】
『わにとかげぎす』。古谷実の新刊です。
意味不明なタイトルは魚類の分類のひとつ、ワニトカゲギス目に由来します。深海魚の代表的な種類であるとのこと。まんまな名前の「ワニトカゲギス」というのもいて(→参考)、ううむ、なるほど、いかにもなルックスです。
『わにとかげぎす』のストーリーはこんな感じ。
主人公・富岡は、巨大スーパーマーケットで深夜警備をしている32歳。
たったひとりの職場をいいことに、パンツ一枚になって筋トレしたり、屋上でコーヒー飲んだり、ただ時間を潰すだけの暇な日々を過ごしてきた。
ある日、富岡は得体の知れない不安に襲われる。富岡は気づいてしまったのだ。自分が人生に遭難しかかってることに。自分がどうしようもなく孤独であることに。
「友達をください」富岡は流れ星に祈った。
すると手紙が舞いこんだ。「お前は 一年以内に 頭がおかしくなって 死ぬ」
⇒『わにとかげぎす』第1話はこちらから読めます。
7年間の深夜勤務で陽の光を浴びることなく、なんとなく社会の底っぽい場所に身体が適応してしまった富岡。「ワニトカゲギス」とは彼のことです。
困難や面倒から目をそらし続け、誰もいない場所に辿りついてしまった富岡が「寂しい!! 友達が欲しい!!」と強く強く願った時、物語は動きはじめます。富岡の願いなど、まるでおかまいなしに。
『わにとかげぎす』で重要なポイントは、主人公の富岡がきわめて普通な人間であるところです。富岡は、孤独な境遇にありながらも変に屈折もせず、飄々としています。基本的に善人、わりとバカ、とにかく友達になってもそんなに悪くない、感情移入がたやすい人間です。
第1話の脅迫状を手始めに、ダークなもろもろが富岡の周辺にまとわりつき始めます。富岡が棲息する場所が暗い場所だからでしょうか。そして、ダークなもろもろと同時に、バカやちょっとヘンな人もまとわりつき始めます。これは場所とは関係なさそうです。
死と隣り合わせの暗黒と、死をも意に介さないとんでもないバカ。相反するようで、実は近いところにあるかもしれないふたつのパワーにひきずられ、物語の進む方向はさっぱりわかりません。
【古谷実の生態観察劇場!】
さて、『わにとかげぎす』を読んで、同じように自分が孤独であると突然気づいてしまう『最強伝説黒沢』(福本伸行/小学館)を連想される方は多いと思われます。
漠然と働いてきた男がいきなり寂しさを覚えて、という展開など、実際に共通点は多い。されど、『わにとかげぎす』と『最強伝説黒沢』は根本的な部分で異なっています。
それは、古谷実と福本伸行の資質の差によります。
福本伸行の場合、理解可能な存在として人間を描きます。福本の描く人間はわかりやすい。『最強伝説黒沢』で話題を呼んだ黒沢のアジフライ事件にしても、突飛かつ奇矯な行動ではありますが、他人によく思われたいという卑近な思いのもっとも愚かな具現化として理解できます。
他人の思考をトレースすることが前提となっている『カイジ』における心理戦にしても、やはり「理解」が鍵だといえます。
古谷実はそうは描きません。
『ヒミズ』の少年を、日の差す世界では長く生きられないモグラ(日見ず)のように描いたように、『シガテラ』で弱者から強者への無意識の毒(不幸)の伝播を描いたように、古谷実は、人間を理解不可能な動物と見なした上で、まるでその生態を観察するように、物語を描いているような気がしてなりません。
その点において、『わにとかげぎす』は『ヒミズ』、『シガテラ』の流れを汲む、生態観察シリーズ(勝手な命名)第3弾ではないかと考えるのでした。
はてさて、いつのまにか深海魚だった(32年、気づかなかった!)富岡が日の当たる世界に浮上を目指した時、何が起こるのでしょうか?
最近の連載では案の定ブルブルな展開になってきておりますが、個人的には幸多かれ、と願っております。富岡には妙な親近感抱いちゃってるしな! ]]>
コミダスワード No.03-5: 純愛総括
http://mangaword.exblog.jp/5636847/
2006-09-07T10:19:00+09:00
2006-09-14T09:04:26+09:00
2006-09-07T10:19:41+09:00
tomoyu_suzuki
純愛
今回のキーワードは「純愛」。
純愛総括となる今回はちばてつや賞大賞受賞作である読み切り版を紹介してみました。サトシとチーコの生活に重点が置かれた、もうひとつの『赤灯えれじい』がここにあります。
『赤灯えれじい』(きらたかし/7巻まで発売中/講談社ヤングマガジンコミックス)
フリーターのサトシが交通整理のバイトで出会ったのはヤンキー少女・チーコだった。ヘタレだけど真っ直ぐなサトシと、口が悪くて手も先に出るけどじつは純情なチーコ。不器用なふたりはじっくりと時間をかけながら愛を育み、そして成長していく……。どこにでもいるふたりの、等身大ラブストーリー。
【もうひとつの『赤灯えれじい』】
『赤灯えれじい』にはもうひとつのバージョンが存在する。
第48回のちばてつや賞を大賞受賞した読み切りバージョンだ。
読み切り版。連載版とストーリーは共通するが、よりコミカルに描かれている。
(週刊ヤングマガジン 2003年24号掲載)
※一部、左右が切れている画像がありますが、御了承ください。
cきらたかし『赤灯えれじい』(講談社)
読み切り版『赤灯えれじい』は、サトシとチーコが同棲をはじめて約2年の時点からスタートする。
サトシは交通誘導のバイト生活、チーコはドライバーとして運送会社に就職、頼りない自分をなんとかしようと、じたばたあがくサトシだったが……という展開。
読み切り版のチーコは完全にあねさん女房として描かれている。
就職面接に失敗(?)したサトシをなぐさめようとしてドツボにはまるチーコ。
(週刊ヤングマガジン 2003年24号掲載)
cきらたかし『赤灯えれじい』(講談社)
自分の道をさっさと決めて先に進んでいくチーコにサトシが引け目を感じて、というストーリーの流れはのちの連載バージョンと同じであるが、物語の重点は恋愛ではなく、むしろ生活に置かれている。サトシとチーコが出会った当時の様子も、回想の3コマと台詞を用いて説明されるだけ。ふたりは息の合った夫婦漫才のコンビのように描かれる。いちおう危機は描かれるものの、ふたりに破局が訪れる気はぜんぜんしない。
ドツキあってからなかなおり。よりわかりやすく、明快に描かれている。
(週刊ヤングマガジン 2003年24号掲載)
cきらたかし『赤灯えれじい』(講談社)
きらたかしが何を描こうとしていたか、この読み切り版『赤灯えれじい』を読むことでさらに理解が深まるような気がする。
つまり、救いのない、袋小路としての同棲生活を描いた『赤色エレジー』のアンチテーゼ、バタバタととことん楽しいふたりの同棲生活を描いたものが読み切り版、そして、恋愛初期まで物語の時間を戻し、初々しくも恥ずかしい恋愛要素をトッピングとしてふりかけたものが連載版『赤灯えれじい』なのだ。
この、もうひとつの『赤灯えれじい』、現在では入手が困難かもしれないが、もし機会があるならばぜひ読んでほしい。ボーナストラックとして単行本に収録とか、されないものかと強く強く願う次第である。]]>
コミダスワード No.03-4: 純愛
http://mangaword.exblog.jp/5591886/
2006-08-31T13:05:00+09:00
2006-09-07T07:46:08+09:00
2006-08-31T13:05:55+09:00
tomoyu_suzuki
純愛
今回のキーワードは「純愛」。
ヘタレだけど真っ直ぐなサトシと、ケンカっぱやいけど純情なチーコ、ふたりが繰り広げる不器用な純愛に注目な『赤灯えれじい』、その作者であるきらたかしさんにいろいろお話をうかがってきました。
これさえ読めば、純愛についてはもう万全?
きらたかしインタビューその4(最終回) 『赤灯えれじい』は「純愛」?
きらたかし: 1970年生まれ。アシスタントを経て、2003年、「赤灯えれじい」で第48回ちばてつや賞の大賞を受賞、その後、同作を長編化した『赤灯えれじい』を週刊ヤングマガジンに連載、大好評を博す。
バイクの魅力がぎっしりつまったエッセイ・コミック『単車野郎』も講談社から発売された。
『赤灯えれじい』(きらたかし/7巻まで発売中/講談社ヤングマガジンコミックス)
フリーターのサトシが交通整理のバイトで出会ったのはヤンキー少女・チーコだった。ヘタレだけど真っ直ぐなサトシと、口が悪くて手も先に出るけどじつは純情なチーコ。不器用なふたりはじっくりと時間をかけながら愛を育み、そして成長していく……。どこにでもいるふたりの、等身大ラブストーリー。
【非モテと純愛】
――ところで、前回のインタビューに登場した花沢健吾さんとご友人とのことですが?
きら:ああ、もうけっこうなかよく。彼のほうが連載をちょっと先にはじめていたんですが、『ルサンチマン』を読んで、おもしろいなあと感じていたんですね。小学館の編集さんにも知り合いがいたんで、『赤灯えれじい』の連載がはじまってしばらくしてから、パーティーのときに紹介してもらって、で、いちおう友だちに。
――わりと意外な感じがして。
きら:あ、そうですか?
――(『単車野郎』など)描いてるものを読むかぎり、きらさんはわりとアウトドアタイプのかたかと思ったんで、一方、花沢さんは完全にインドアなかたなんで、接点があるのか、と。
きら:(花沢さんは)実際、本人も相当インドアな感じ。単純に漫画の趣味っていうか。向こうも偶然『赤灯えれじい』を読んでくれていたんで。そのへんがいちばん大きいですね……。遊びとか、外でいっしょに遊ぶというよりは、夜どっかで飲んだりとか、そんな感じですけど。
――『ボーイズ・オン・ザ・ラン』で、きらさん出てますし。
きら:そうですねえ。まんまですね。あれもずいぶん前から使っていいかということは言われていたんですけど、やっと出てきたなあと。まさかクリリンといわれるとは思わなかったですけど。
【純愛は意識していない】
――今回のキーワードは「純愛」ということになってるんですが、『赤灯えれじい』は純愛を意識して描かれているんでしょうか?
きら:(即答)とくに意識はしていないですね。
――キ、キーワードが……(泣)
きら:書評で「純愛」、「純愛」、みたいに書いてもらってて、なんか逆に恥ずかしいというか。なんだろう? いわゆる世間でヒットしている恋愛ドラマがあるじゃないですか。ぼくはそういうのをあんまり受けつけなくて……。少ない自分の経験からいえば、そんな恋愛には感情移入ができない。『赤灯えれじい』はフィクションですけど、自分の感情が入る恋愛ものというのを意識して描いてます。ただ、それを純愛といわれるのはとても気恥ずかしい。
サトシとチーコの恋愛は本当にブレないですからね。本当にリアルなところで言ってしまえば、付き合いもこなれてくるとほかの女の子に目がいってしまったりとか、少なからずあると思うんですけど……。ぼくもそんなブレない恋愛に憧れはするんですけど、なかなか。現実問題としてはねえ。街中で可愛い娘みるだけで目がいってしまったりするわけで。そういう点では、サトシはダメ男なんだけど、恋愛に対して一本気なところは男としては憧れます。
【男女愛よりも友情】
――第1回にもちょっと話が出ましたが、チーコがサトシを殴るというのは、いわゆるドツキ漫才のフォーマット?
きら:漫画的に誇張して描いてますけど、ふだんの生活の中でペースを握っているのはどちらかといえばチーコのほうだ、ということです。前回のインタビューで花沢くんも言ってましたけど、ぼくにとっても女性というのはわからない存在で、チーコのいいところというのは、友情のモードである程度付き合える、男と男的な付き合いの仕方が通用するところなんだと思います。チーコって、実際にいたらたまらんなと思うところもあるんですけど、そういう友情で付き合いができるというのは男にとっては理想とするところであって。
――男女の愛というよりはむしろ友情も交えた関係?
きら:そういう女性だとたぶん男としていいんじゃないかっていう……。ケンカしてもドツキ合いでなんとかなって、そういう中で女性っぽさ、みたいなものを時折かいまみせて。ふだんからケンカとかしてても長く付き合えそうだと思います。ぼくはチーコそのものみたいな女性とは付き合ったことがないんで、実際にどうなるかといえば、わかりませんが。
チーコに直接的なモデルはいないですね。小学生のころから読んできた漫画に登場する女性キャラと、ぼくが付き合った女性とを足して、多少リアリズムを出して描いてます。ベースになっているのは昔から読んでる漫画の女性キャラですね。自分自身の恋愛体験を反映させているのは1割とか2割程度だと思います。
――花沢さんの『ボーイズ・オン・ザ・ラン』と対照的な作品でありながらも同じようなテーマを追求してるというか。
きら:そうかもしれないですね。展開でいうと向こうのほうが女性に厳しいというか、生々しい感じがするんですけど、扱っているところは同じだと思いますね。そのへんはふたりで話をしてどうこうというわけでもなくて、たまたまなんですが。逆に花沢くんの場合、よくもあそこまで生々しく描くなあというか。
――いや、まだ物足りないらしいですよ。もうちょっとやらないと……だとか。
きら:ぼくはあんまり、なんだろ……漫画のキャラいじめるの苦手なんで、あんまりヒドいことはできないですね。必然があれば多少はできますけど。どっちかというと、読んでいてほんわかするほうが。
【自分の中を模索する】
――『赤灯えれじい』を対象として、どのあたりの読者に読んでもらいたいですか?
きら:意識しちゃうと自然に描けなくなってしまう気がするんで、あんまり意識はしていないですね……。
担当編集渡辺:(アンケートの結果をみるに)この『赤灯えれじい』は、ヤンマガらしくないといわれる傾向が大な作品で、女性読者の支持が圧倒的にあるんです。たぶんヤンマガを読んでいる女性というのは、自分で買っているよりは、彼氏や兄弟が読んでいて家に転がっているのを読むというケースが多いと思うんですが、そういう女性にしてみたら唯一読みやすい作品なのかもしれません。
また、アンケートに答えてくれる読者と一般読者の平均年齢には若干のズレがあって、実際の読者は高校生とかも多いと思うんですが、反応をくれる読者層は全体的に高めですね。『赤灯えれじい』は、大人に受ける作品というか、二十歳ぐらいの主人公たちのことを暖かく見つめる世代というか。
――若い読者がふたりの同棲生活に憧れて読んでいる、というのはないんでしょうか?
担当編集渡辺:それもあると思いますね。いわゆる等身大、手垢のついた言葉でいえばそうなるんでしょうけど、普通の人たちの普通の恋愛を描いているので、自分たちを投影して読んでるカップルもいると思うんですけど。
――そういう形で受けるだろうな、という確信みたいなものはありました?
きら:そもそも受ける自信が、連載を始める時にはなくて……。ヤングジャンプに持ち込みにいった時、読者を意識して描いたら、けちょんけちょんでまったくダメだったんですね。で、懲りて、自分の中にディープに潜る作業をして、自分の好きなものをとにかく考えて、形になったのが『赤灯えれじい』なんで、どちらかといえば、読者を意識するというよりは自分の中を探し回って描いてる感じのほうが大きい。そんなものが評価されているのは本当にラッキーだな、と思いますね。
4回にわたってお送りしたきらたかしさんインタビューも今回が最終回。次回はキーワード「純愛」総括として、イマドキの純愛について書く予定です。お楽しみに! (9/7追記:予定でした)
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コミダスワード No.03-3: 純愛
http://mangaword.exblog.jp/5545958/
2006-08-24T09:57:05+09:00
2006-08-24T09:57:05+09:00
2006-08-24T09:57:05+09:00
tomoyu_suzuki
純愛
今回のキーワードは「純愛」。
ヘタレだけど真っ直ぐなサトシと、ケンカっぱやいけど純情なチーコ、ふたりが繰り広げる不器用な純愛に注目な『赤灯えれじい』、その作者であるきらたかしさんにいろいろお話をうかがってきました。
これさえ読めば、純愛についてはもう万全?
きらたかしインタビューその3 ちばてつや賞受賞まで
きらたかし: 1970年生まれ。アシスタントを経て、2003年、「赤灯えれじい」で第48回ちばてつや賞の大賞を受賞、その後、同作を長編化した『赤灯えれじい』を週刊ヤングマガジンに連載、大好評を博す。
バイクの魅力がぎっしりつまったエッセイ・コミック『単車野郎』も講談社から発売された。
『赤灯えれじい』(きらたかし/7巻まで発売中/講談社ヤングマガジンコミックス)
フリーターのサトシが交通整理のバイトで出会ったのはヤンキー少女・チーコだった。ヘタレだけど真っ直ぐなサトシと、口が悪くて手も先に出るけどじつは純情なチーコ。不器用なふたりはじっくりと時間をかけながら愛を育み、そして成長していく……。どこにでもいるふたりの、等身大ラブストーリー。
【ルーツは子供のころの漫画体験】
――ご自身の作品のルーツとなっているのは何だと思われますか?
きら:小学生のころ読んでいた漫画だと思います。ぼくは36歳なんですが、ちょうど黄金期の「少年チャンピオン」世代で、作品でいえば、『マカロニほうれん荘』とか『らんぽう』とか。水島先生の作品では、『ドカベン』、『球道くん』、『一球さん』とか、『野球狂の詩』。
人気があった作品はぜんぶ好きで、そのちょっと後ぐらいかな、松本零士先生の『銀河鉄道999』とか読んで。小学生から中学生になるころに『タッチ』、『うる星やつら』、少年サンデーのノリのほうが面白くなってきて……。
ただこのころは漫画家に憧れこそすれ、実際になろうとは思ってませんでした。リアルに将来を考えるタイプの子どもだったんですね。その後、ガンプラからプラモデルにハマって、中学のころは田宮模型に就職したい、とマジメに思ってました。漫画家を目指そうと本気で考えはじめたのは高校くらいからです。
【実は少年サンデーデビュー】
――高校に入ってから、具体的にはどんなことを?
きら:小学校高学年のころからずっと絵画教室に通っていたんですが、高校に入って美大受験のコースに切り替わったんですね。そのコースの先生が、昔すごく漫画にハマってた人で、その先生にちばてつや先生が全盛時の頃の「少年マガジン」とか、雑誌「ガロ」とか、つげ義春先生の『ねじ式』、手塚治虫先生の『鉄腕アトム』の初版本とか、そんなのをいっぱい見せてもらったんです。
ちょうどヤンマガで『AKIRA』の連載が始まった時期で、自分の中で新たな漫画熱と、こんどは描くほうに目覚めてきた感じです。ただ、まだたいして描いてはいなかったですね。結局、高校時代は、完成原稿なんかいちども描けなくて、コマ割って漫画っぽくはするんですけど、盛り上がりのシーンだけ描いてみたりとか。逆に、そんなことぐらいしかしていないから自分でも漫画家やれるんじゃないか? とか、根拠のない自信を持ってました。
――作品として完成させたのは大学に入ってから?
きら:大学に入ったころ、作品を一本、とりあえず描きあげて、最初「少年チャンピオン」に送ったんですね。それで最終選考にひっかかったんです。で、次にもう一本描いて送ったら今度はなんにもひっかかからなくて、また2、3年なんにもしない時期が続くんですね。大学の卒業手前、もうその当時は漫画家になると決めてたんですね。だから就職活動もしなくて、みんなが就職先決まってるときに自分はなんにも決まってなくて、就職活動の一環として一本描いて、東京まで持ち込みに行きました。そこで指摘された箇所を修正して「少年サンデー」の漫画賞に応募して入賞したんです。『ダウンヒラーズ』っていうスキーものでした。
『ダウンヒラーズ』があっさり掲載されたものですから、すぐに連載もとれるだろうと意気揚々と上京してみたら、そこからはぜんぜん。逆にそれから漫画のことをじっくり学べる時期があったのは今思えばよかったかな、と思うんですけどね。あのまま中途半端に連載を持ってたら現在漫画の仕事は続けてられなかったのではと思います。
【ティーンズロードで連載】
――その後、山田玲司さんのところでアシスタントをされてたそうですが。
きら:丸8年ぐらい。長かったですね。居心地がいい職場だったんで……ついつい長居しちゃいましたね。その前にお世話になってたところがホント、絵に描いたような漫画家職場だったのに、山田先生のところは毎週毎週曜日とか時間がキッチリしているし、拘束時間もけっこう短いしで、自分の原稿をやる時間も確保できたんで、その点では助かりました。
96年からは「ティーンズロード」誌で月イチで16ページ、『少女爆走伝説Fair』(吉良たかし名義。Amazonではアダルト分類されてますがアダルトコミックではありません)というレディース漫画を連載してたんで、忙しいといえば忙しかったですね。
――山田玲司さんのアシスタント時代からちば賞受賞までのあいだは漫画とイラスト仕事で?
きら:「ティーンズロード」でやったことが縁でミリオン出版さんのイラスト仕事がとかが多かったんですけど、実話系の雑誌とか、「GON」、今出てる「ナックルズ」とかですね。とにかく、注文されたイラストはなんでも描きました。地味に勉強させていただきました、という感じでしたね。
【ちばてつや賞、そして『赤灯えれじい』連載開始】
――その後、読み切り版「赤灯えれじい」で、第48回ちばてつや賞の大賞を受賞されます。作品が形になるまで時間はかかりましたか?
きら:はじめはわりとさくさく描いてたんですけど、完成間近になってから半年くらい寝かせました。そのあいだに後半の展開を直して。ちば賞に応募してみたら、大賞をいただいたわけです。
――そして連載版『赤灯えれじい』がはじまったわけですが、週刊連載はたいへんですか?
きら:たいへんですね。自分に週刊連載ができるとは思っていなかったんですけど、いざはじまってしまうとイッパイイッパイながらもやれるもんだなあ、と。これは自分だけじゃなくて、みんなけっこうヒーヒー言いながらやってるんで、そういうの見てると、自分も頑張んなきゃダメだな、という感じで。自分がヤンマガで連載できるというだけで基本的にはありがたいわけで、そのへんは今までグータラしてたぶん、週刊連載、機会をもらったんで、ちょっと無理してでも、ありがたくやってます。
【他人事じゃない失踪日記】
――最近注目している作品(漫画)があれば教えてください。
きら:うーん、ほかの作家さんの作品もけっこう読むほうなんですが……。(考えこむ)なんだろうなあ……。うーむ……。うーむ……。最近の作品ですよね? (悩み中)えーと、すごいなあとおもったのが、吾妻ひでおさんの『失踪日記』で、近頃新刊(『うつうつひでお日記』)が出ましたよね。ここ最近でいちばん胸にきたのはあの作品になってしまうかなあ。あー、もうちょっとサッと出てこないとダメですね。
あとは、岩明均さんの『ヒストリエ』は読んでてすごく面白いし、山口貴由さんの『シグルイ』、奥浩哉さんの『GANTZ』、 冨樫義博さんの『HUNTER×HUNTER』とか、自分が描けない種類の作品のほうが単純に一読者として楽しめます。浅野いにおさんの『ソラニン』みたいに自分の漫画と似た傾向の作品については妙に意識してしまうんで。自分だったらどう描くかとか考えてしまう。
吾妻先生の『失踪日記』については、漫画家としては……ねえ。あの画で描かれているから読めるんでしょうけど、リアルに描かれたら……、本当にもう、あまりにも生々しすぎますね。怖いですね、本当に。『うつうつひでお日記』も読んでいるところなんですが、ジャンプ系の作家さんで4人ほど自殺したとか書いてあって、あとずっとお金がない、お金がないとネタにされてて、ああいうのみてて正直怖いですね。藤子・A・不二雄先生の『まんが道』なんかもすごく好きなんですが、漫画家としてはああいう作品に対しては感情の入り方が半端じゃない、本当に他人事ではありません。
『失踪日記』吾妻ひでお/イースト・プレス)
描けないプレッシャーからの失踪、自殺未遂、路上生活、肉体労働、アル中体験、そして強制入院。オビにある「全部実話です(笑)」の言葉はダテではない。稀有な経験を淡々と描いた、実体験マンガの傑作。
『うつうつひでお日記』吾妻ひでお/イースト・プレス)
アル中から復帰、社会復帰をめざす日々。しかし仕事はあまりなく、抗鬱剤と図書館の日々。とくに波乱もない日々の生活を淡々と描く、実質、「吾妻ひでおの読書日記」。『失踪日記』の続編を期待するとちょっとちがうが、これはこれで興味深い。最新SFもちゃんとチェックしてるんだなあ。
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コミダスワード No.03-2: 純愛
http://mangaword.exblog.jp/5499675/
2006-08-17T11:04:00+09:00
2006-08-17T11:05:54+09:00
2006-08-17T11:04:45+09:00
tomoyu_suzuki
純愛
今回のキーワードは「純愛」。
ヘタレだけど真っ直ぐなサトシと、ケンカっぱやいけど純情なチーコ、ふたりが繰り広げる不器用な純愛に注目な『赤灯えれじい』、その作者であるきらたかしさんにいろいろお話をうかがってきました。
これさえ読めば、純愛についてはもう万全?
きらたかしインタビューその2 『単車野郎』
きらたかし: 1970年生まれ。アシスタントを経て、2003年、「赤灯えれじい」で第48回ちばてつや賞の大賞を受賞。その後、同作を長編化した『赤灯えれじい』を週刊ヤングマガジンに連載、大好評を博す。
バイクの魅力がぎっしりつまったエッセイ漫画『単車野郎』も講談社から発売された。
『単車野郎』(きらたかし/全1巻/講談社ヤングマガジンコミックス)
関西地区限定のバイク情報誌「ゲットバイク」で6年間連載されたバイク・エッセイ漫画。街乗り、ツーリングからレースまで、バイクの魅力がぎっしり凝縮された1冊。きらさんの日常漫画として読んでも面白い。講談社版のもととなったトランク出版版単行本も通販により入手可能。
→トランク出版『単車野郎』単行本通信販売コーナー
【単車野郎】
――ぼくは免許をぜんぜん持っていなくて、知識も皆無なんですが、そんなぼくでも『単車野郎』は面白くて……。
きら:単車の話とかでも楽しいですか? 漫画に関するところだけじゃなくて、単車のところも読んでわかりました?
――面白かったですよ。いろいろ興味を引かれて、きらさんが最近買われたというT-MAXとか、ネットで調べて、ああ、こういうのなのか、カッコいいなあとか思って。
きら:ぜひね、ひとりでも単車乗りさんが増えてくれれば。
――『単車野郎』、内容がすごく濃くて、情報量が多いですね。
きら:関西の中古バイク雑誌で地味に描いてた連載がまさか、全国的に発売できるとは思いませんでした。自分的には愛着のある作品だったんで、すごくうれしいです。連載6年分が1冊に凝縮されてるだけはあって、いまちょっとこのテンションでは描けませんね。でも、機会があれば、僕的にはまたやってみたい種類の連載です。
――単車関係のネタは『赤灯えれじい』には出さないんですか?
きら:『単車野郎』を講談社さんから出してから、もっとこういう話を出せばいいのに、とかいわれるようになりました。スクーターの小ネタくらいなら出してもいいかな。単車メインの話はまたべつの作品で描ければ、と思います。そっちのほうがぼく自身も緊張しないでできるので。
『単車野郎』は、プロが評価するわけでもない、限界領域の話でもない、ホント、一般人が乗った感覚で、この単車ってどう? とか、描いてる作品なんで、ぼくと同じレベルとか、それこそ初心者の人が見ると、専門的なものよりはむしろ伝わるかもしれないですね。単車についてはオフロードバイクに乗った経験というのが大きくて。
――それはぜんぜんちがうものなんですか。
きら:コケてもあんまり気にしなくていいというのがすごく大きいです。ぼく、根がビビりで、一般公道ではあんまり無茶ができる性格じゃないんですが、オフロードバイクでコースとかに行ってやれば自分の限界以上のことができるんです。単車を乗りこなしたいという欲がすごく出てきます。自分がステップアップするごとに楽しくなってくる。そういう種類の楽しさがなくて、ただ街中を乗ってるだけだったら、単車という趣味はここまで持続しなかったと思います。1台しか単車持てないとしたら、ぼくはオフロードバイクを選びます。
『単車野郎』 第74話より。
きらさんお気に入りのYAMAHAセロー(きらさんのマシンはセロー225)。わずか2ページの中に単車の魅力が凝縮されている。
©きらたかし『単車野郎』(講談社)
――たしかに。『単車野郎』にはコケた話とかたくさん載ってますけど、これは怖かった、恐ろしかったというのはありますか?
きら:峠道でオーバーランしたときですね。オーバーランしてた時に対向車が来てたら、死なないまでも大怪我くらいはしてたんじゃないかというのは何回もあって。単車乗り始めのころのほうが限界を知らなくて、飛び出しちゃうことも多い。下手したら大怪我してたかもしれないですね。レース場で土の上走るぶんには、気をつけて走ってるし、そういう場所なんで、怪我しても骨折程度ですむと思うんですが、峠道にはそういうのがない。そういう点では……。現在、峠道を走るときにはそういうことを考えて走りますが、大学のころ、乗り始めの時期は加減がわからなかったんで、しょっちゅう、おっととと、とかしてました。そのときダンプカーに出くわしてたりしたら現在のぼくはいなかったかもしれないですね。
知り合いでもひとりふたり、亡くなった人もいて、たしかにそういう点では危ないといえば危ない。でも、そのリスクを負っても得るものは大きい。乗ったことない人、降りちゃった人もぜひ単車に、と。いやホント、楽しいと思います。スクーターでもなんでもいいので、ちょっとツーリング的なことでもしてもらえれば。
【単車の魅力】
――きらさんにとって単車の魅力とはなんでしょう?
きら:わかりやすいところでいえば、自分の行動範囲が広がるというのがあります。あと突き詰めていえば、単車って、下手すると命がけの乗り物になっちゃうわけじゃないですか、そこが逆に楽しいところですね。命にもかかわるし、転んじゃったりもするんですけど、乗りこなせれば楽しいし、移動する際も車だったら雨が降ろうがどうしようが関係ないところが、単車の場合はいちいち気にしつつ動かなければダメだったりするし、アクセルひねるだけで自分の肉体では到底不可能なスピードが出せたりするし……。
――ちょっと原始的で面倒くさいところがいい?
きら:そういうところも込みでホントに面白い。単純に機械が動くというのが魅力ですね。ぼくは蒸気機関とかも好きなんですけど、エンジンとか機械が動いて何かするっていうのが、そういうものに自分がかかわっているというのが好きで。本当はエンジンとかもバラバラにして組み立てるぐらいのことはやってみたいんですけど、なかなかそこまでは。
――単車関係のお仕事に就こうとか、そういうのはなかったんですか。
きら:やっぱねえ、レース関係とか出てるとつくづく思うんですけど、そういうのに出ると、ものすごく謙虚な気持ちにさせられるというか、上に上にはいるという現実を本当に見せつけられるというか、速さだけでもそうだし、メカニックでも徹底している人は本当にすごくて、そういう人を見ると、それでおまんま食おうなんてとてもとても……。
まあ、趣味でやれてるから逆に楽しいってのもありますよね。商売だとなかなかたいへんじゃないですか。そこまで突き詰めようという段階までには正直いかなかった。ただ、一生乗れる限りはずっと細く長く、付き合っていきたいですね。
【楽しかった大学生活】
――単車の楽しさに目覚めたのは、大学に入ってからですか?
きら:大学の時に入ってた学生寮がすごく楽しいところだったんです。高校時代までぼくはインドアなタイプだったんですが、学生寮の生活で、人とどこかに繰り出したりとか、そういう楽しさに目覚めました。
単車の楽しさに目覚めたのも大学からですね。高校の時にずっと乗りたくてたまらなかったけど、当時、規制が厳しかったんで、免許は取ったものの、思い切って乗るところまではできなかった。いま思い返すと、ぜひ乗っておくべきだったな、と思うんですけど……。そのへんのうっぷんが大学生活で一気に出たんでしょう。ただお金はないので、お金とかをかけずにやる感じで。バイクと並行して競技スキー部、体育会もやっていたんです。単車にどっぷりというよりは両方かけもちで、勉強はあんまりしていないですけど、学生生活は本当に楽しくて、大学は行ってよかったな、と。大学行ってなければ『赤灯えれじい』も描けなかったんじゃなかったかなと。
――学生寮の楽しさみたいなものが作品の根底にある?
きら:いろんな人とかかわる楽しさみたいなものはありますねえ。どっちかといえば、そういうの苦手だったんですが、クラブも体育会だったんですけど、無理やり上下の付き合いとか強制されてやってるうちに、ああ、上下のかかわりってのも楽しいものなんだと思えてきて。もちろん、横どうしの付き合いも楽しいし。『赤灯えれじい』にも間接的には影響を与えていると思います。バイトのセンパイの稲葉さんとの関係にはそういうのが出ているかもしれないですね。学生寮ものの作品もそのうち描きたいです。
次回、きらたかしインタビューその3は、漫画家としてのきらさんをクローズアップ。漫画家になるまでの道のり、最近気になってる作品などをお聞きしてきます。お楽しみに!]]>
コミダスワード No.03-1: 純愛
http://mangaword.exblog.jp/5454536/
2006-08-10T11:21:00+09:00
2006-08-11T08:33:52+09:00
2006-08-10T11:21:17+09:00
tomoyu_suzuki
純愛
今回のキーワードは「純愛」。
ヘタレだけど真っ直ぐなサトシと、ケンカっぱやいけど純情なチーコ、ふたりが繰り広げる不器用な純愛に注目な『赤灯えれじい』、その作者であるきらたかしさんにいろいろお話をうかがってきました。
これさえ読めば、純愛についてはもう万全?
きらたかしインタビューその1 『赤灯えれじい』
きらたかし: 1970年生まれ。アシスタントを経て、2003年、「赤灯えれじい」で第48回ちばてつや賞の大賞を受賞。その後、同作を長編化した『赤灯えれじい』を週刊ヤングマガジンに連載、大好評を博す。
バイクの魅力がぎっしりつまったエッセイ・コミック『単車野郎』も講談社から発売された。
『赤灯えれじい』(きらたかし/7巻まで発売中/講談社ヤングマガジンコミックス)
フリーターのサトシが交通整理のバイトで出会ったのはヤンキー少女・チーコだった。ヘタレだけど真っ直ぐなサトシと、口が悪くて手も先に出るけどじつは純情なチーコ。不器用なふたりはじっくりと時間をかけながら愛を育み、そして成長していく……。どこにでもいるふたりの、等身大ラブストーリー。
【元ネタはダウンタウン】
――『赤灯えれじい』といえば、サトシとチーコですが、どんなイメージからこのふたりを着想されたんでしょうか?
きら:もともと恋愛ものを描こうというつもりはなかったんです。ルーツは映画とコントですね。
ダウンタウンの松っちゃんのコントで、気に入ったネタがありまして、そのへんをごちゃまぜにして、自分なりにアレンジして描いてみようかなあと思ったのがきっかけです。
テレビで放送されたネタじゃなくて、オリジナルのビデオで、3本くらい、たしかフルーツの名前で出てたやつがあるんですけど、そのうちの1本で「ミックス」っていうネタがあって。
『HITOSI MATUMOTO VISUALBUM Vol. (リンゴ)“約束”』
VHS版が好評を得た「VISUALBUM」がDVDになって登場。作・演出・主演の3役をこなすのはダウンタウンの松本人志。「ごっつええ感じ」のメンバーとのシュールで不条理なコントを満載する。コントはもちろんのほか、特典映像も収録。
収録コント:「システムキッチン」、「げんこつ」、「古賀」、「都…」、「ミックス」
きら:関西のボロっちいアパートに住む、娘ひとりいるヤンキー夫婦のコントで、浜ちゃんがヤンキー旦那、松ちゃんがヤンキー奥さん、夫婦の娘役をココリコの遠藤、向かいのアパートに住んでるちょっと物わかりのいい年配の夫婦役を板尾とホンコンのふたりが演じてるお話なんですが、ヤンキー夫婦がほんのちょっとしたことから罵りあいのケンカをしまくるんです。
その罵りあいのなか、ヤンキー奥さんが「あんたを誰にも渡したくないんじゃ!みたいなことをポロっといったとたん、ふたりがピタっと止まって。作ったミックスギョウザのことでケンカしたりするんで、タイトルが「ミックス」なんですが、なんだかそういうカップルっていいな、と。
きら:映画は、市川準監督の『東京兄妹』。兄妹でひとつ屋根の下に住んでいて、とくにたいした事件もなく、淡々と終わっちゃうお話なんですけど、兄妹ではなくて、カップルでこんな感じの生活描いたら面白いかなあと……。
『東京兄妹』
出演: 緒形直人、粟田麗 監督: 市川準
両親を亡くした兄妹、健一と洋子は二人暮らし。兄の健一は妹のため、結婚にふみ切れないでいる。妹の洋子にできた恋人は偶然にも自分の友人であったが……。 東京の市井に住む兄妹の姿を清らかに静かに、そして丹念に綴って行く。
きら:映画が『東京兄妹』だったんで、最初は『大阪兄妹』にしようかなと思ったんですけど、それがカップルになって、さらに「ミックス」というコントが合わさって、『赤灯えれじい』になりました。
【「エレジー」でなく「えれじい」】
――『赤灯えれじい』というタイトルは、林静一さんの『赤色エレジー』からきているそうですが。
きら:ある日テレビでやっていた「ガロ」の特集番組で林静一さんの『赤色エレジー』を知りました。その番組の紹介では、南こうせつとかぐや姫の『神田川』みたいな、同棲しているのに暗いイメージで。
そもそもエレジーって、哀歌、悲しい歌じゃないですか。ぼくの中で「同棲」っていうものは、たしかにちょっと悲しさもあるんですが、やはり基本的には楽しいことであって欲しいんで、カドを丸める意味で「えれじい」とひらがなにしたんですね。
『赤色エレジー』(林静一/小学館漫画文庫)
マンガ家を目指しながらも上手くいかない一郎と、一郎を愛し支える幸子。ふたりはしがないアニメーターをしながら、どうにか日々を暮らしている。刹那的で行き場のない同棲生活とその破綻を前衛的なタッチで描く。『赤色エレジー』に感銘を受けたあがた森魚が作品世界を歌にした同名曲は1972年に大ヒット。時代を象徴する名作である。
きら:『赤色エレジー』は当時にしてみたら、時代にぴったり、もしくは先に行ってる感覚だったと思うんですが、ぼくの『赤灯えれじい』はむしろ後退しています。どちらかといえばノスタルジー漂う感じになってしまいました。
時代設定は現代に合わせてるし、(物語の中に)ふつうに携帯なども登場するんですが、読んでいると現代よりももっと前、バブルよりももっと前くらいに感じられてしまうんです。なぜそうなるのか、自分でもよくわかりません。
自分では時代を意識してないつもりなんですけど、バブルの状況でこの作品を発表したとしても、たぶんウケなかっただろうな、と思います。ここ最近、ちょっと上向いてきたとはいえ、まだまだ不景気なわけで、仕事だお金だの価値観が問われているこんな時期だから、ちょっと貧乏くさいこんな作品がハマったのではないかと感じます。
【交通誘導はツラい】
――サトシとチーコの出会いのきっかけとなる交通誘導員をはじめ、『赤灯えれじい』にはアルバイトネタがいくつか登場します。それらはきらさんご自身の実体験ですか?
きら:ほとんど大学時代のエピソードですね。ガードマン(交通誘導)は本当にキツくて、あれを長い期間できる人間は本当にスゴい。立ってるだけでお金もらえるなんて、こんなに楽な仕事はないといってる人もいたんですが……。
――なにがたいへんでした? 寒かった?
きら:忙しい現場だと罵られる。タクシーの運転手なんか生活かかってるわけですからねえ。引っかかってるのがたぶんその一箇所だけじゃなくて、ほかのところでも引っかかってる、だんだん怒りが増幅されていったところに要領の悪い捌きかたされた日にゃブチ切れるのもしかたないです。逆にヒマな現場だと本当に何もなくて、時計さっきも見たけどまだ5分しか経ってないぞとか、8時間が本当に長くて……。そうなると自分の存在価値までも考えちゃう。なんでここにいるんだ、みたいな。当時としてはバイトのお金はよくて、1日やって8000円くらいもらえてたんですけど、もうツラいわ、これだったら時給600円くらいでもっと動きのあるアルバイトしたほうがいいわとか思って。
急にお金が入り用になったときには昼に電話したら夜にはもう仕事があって、それは助かったんですが、あまりにも自分には合わない仕事でした。レンタルビデオ屋のバイトとか、ピザの宅配のバイトは楽しくできてましたね。あと(『単車野郎』にも描いた)中古バイクのオークション仕事は楽しかったですね。もっぱら友達と参加して。
【馴染みのある風景を出したい】
――大阪が舞台となっていますが、きらさんのご出身地なのでしょうか?
きら:厳密にいえば、ぼくは兵庫県宝塚市の人間なんですけど、大学が大阪だったんで、まあ、バイトしてたのは大阪でした。せっかく大阪を舞台にして描くんで、有名なところなんかも自然な形で出したいな、とは思っています。そのへんは意識して、大阪の実際にある場所を、大阪の人には馴染みのある風景を描くようにしています。
【カップルが物語を動かす】
――サトシとチーコ、できちゃった結婚のサトシ弟夫婦、細かいところでは教習所に登場するヤンキーカップルまで、カップルの対比によって物語が動いているとの印象を受けます。
きら:それは意識してますね。セリフではなく、若い人から年配の人まで、カップルを描くことでそれぞれの恋愛観というのかな、結婚観というのかな、表現できたらと思ってます。やっぱりちょっとサトシとチーコのふたりは真っ直ぐなところがあるんで、現実的にはなかなかそんなに単純な人らばっかりじゃないはずだと思いますんで……。
――カップルだけではなく、サトシの就職先である風俗誌編集部の久保さんの存在も気になりますが、彼女は今後……。
きら:当初から今くらいには動いてもらう予定ではいたんですが、描いてるうちに可愛くなってきましたね……。
――久保さんは案外人気があるんじゃないでしょうか。
きら:可愛くて純情でそれでいてサトシに好意を持つ、という都合のいいキャラにはしたくなかったんで、どちらかといえばビジュアル的にも地味なまんまで描くつもりだったんですけど、描いているうち自然にいい感じのキャラに変化してきてしまいました。なんだろう、自分の希望的なものがあるのかもしれません。
【サトシとチーコ、ふたりのラストは?】
――ずばり、『赤灯えれじい』のラストはどこなんでしょうか?
きら:漫画としてのラストはきっとどこか節目のところで終わってしまうと思うんですが、あからさまにここがゴールだ、というのはないと思います。サトシの成長もそうなんですが、いわゆる少年誌のヒーローものというわけではないので、あからさまな成長はありません。それでも連載がはじまったころと比べれば、じみに成長していっていると思うんです。
自分におきかえて考えてみると、そんな短期間でここまで人間代わらないよな、と思うんで、それを思えば、サトシは成長しているほうではないかと。サトシはまだ二十歳くらいなわけで、その年齢で責任持った生活をしようなんて考えてる時点でけっこうマジメな子ですよね。一直線のところは、若いゆえなのかな、とは思うんですけど。
次回、きらたかしインタビューその2は、単車の魅力がぎっしりつまったエッセイコミック『単車野郎』についていろいろお聞きしてきます。お楽しみに!
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コミダスワード No.02-5: 非モテ総括
http://mangaword.exblog.jp/5397873/
2006-08-03T10:36:00+09:00
2006-08-03T10:12:31+09:00
2006-08-02T07:36:22+09:00
tomoyu_suzuki
非モテ
2つめのキーワードは「非モテ」。
「非モテ」に「ヘタレ」、人生を傍観し続けた者たちの魂の叫びを描く漫画家・花沢健吾さんに全4回にわたってお話を伺ってきました。
第5回の今回は非モテ総括「田西はタクシードライバーの夢をみるか?」と題し、花沢健吾さんが影響を受けている(だろう)非モテ作品と『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の関係について探ってみました。「非モテ」はどっちに向かうのか!?
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(花沢健吾/1巻から3巻まで発売中、表紙画像は3巻のもの/小学館ビッグコミックス)
弱小ガチャガチャメーカーの営業マン・田西は一世一代の恋愛チャンスを迎えていた。27歳の誕生日、憧れの後輩・植村ちはるとはじめて話せたのだ。メール交換も始まって、ふたりの仲は進展していくはずだった……のだが? 立ち上がれ! 拳を振り上げろ!
空回るダメ男・田西の遅咲き青春ストーリー。
【田西はタクシードライバーの夢をみるか?】
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の田西は21世紀のトラヴィスである。田西はタクシーを持っていないから、自分の足でばたばた駆けていかなければならない。
『タクシードライバー コレクターズ・エディション』(主演:ロバート・デ・ニーロ/監督:マーティン・スコセッシ/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
夜のニューヨーク。孤独な心を抱えるひとりのタクシードライバーを主人公に、都市に潜む狂気、そして混乱を描きだす。主人公トラヴィスをロバート・デ・ニーロが、家出少女アイリスをジョディ・フォスターが演じた。
マーティン・スコセッシ監督の出世作となった『タクシードライバー』(1976)という映画がある。ロバート・デ・ニーロ演ずる主人公の名前がトラヴィスだ。
田西とトラヴィスの共通性を論ずる前に『タクシードライバー』のストーリーを簡単に紹介しよう。
不眠症に苦しむ青年トラヴィスはタクシー会社に就職する。どうせ夜眠れないのなら夜勤のタクシー運転手にでもなって、金を稼いだほうがマシだと考えたからだ。
夜の街を流すタクシー稼業はトラヴィスの孤独をさらに募らせる。後部座席に乗り込んだ酔客は上機嫌で商売女とイチャつき始める。トラヴィスで無言で車を運転する。空いた時間、トラヴィスはハードコア・ポルノの映画館に通いつめ、食い入るようにスクリーンを見つめる。
トラヴィスは手の届かない場所、たとえばタクシーの後部座席、もしくはスクリーンの向こう側にあるもの、セックスとか愛だとか、そんなふうに呼ばれるものに飢えて飢えて、自分で自分が制御できなくなっているのだ。
ある日トラヴィスは、タクシーの客として拾った女性に一目ぼれする。彼女の名前はベッツィ。前述の大統領候補選挙事務所のスタッフだ。彼女と一緒の時間を過ごすため、トラヴィスは選挙ボランティアとして名乗り出る。ベッツィとの初デートになんとかこぎつけるものの、無自覚なセクハラとストーカーまがいの行動が災いして徹底的に彼女にフラれる。
ひどく落ちこんだトラヴィスは先輩のタクシー運転手に相談を持ちかける。
「女でも抱けばいい」
北方謙三的なアドバイスを一笑に付したトラヴィスは女の代わりに銃を買ってしまう。44マグナム、38口径で武装し、身体を鍛え始めたトラヴィスは言う。
「オレはやっとわかった。オレの人生の目的が」
トラヴィスの行動の理由も、人生の目的も、トラヴィス本人以外にはさっぱりわからない――
「非モテ」には「モテ」が常態であるというニュアンスが含まれる。「非モテ」は常に孤独である。トラヴィスはどうしようもなく孤独であり、(あえて言い切ってしまうが)病としての「非モテ」が持ちうる全ての症状を呈する、「非モテ」の中の「非モテ」患者である。その病状は田西のそれとどう共通しているだろうか?
【空気を読めずにドン引き】
ベッツィとの初デート。トラヴィスは彼女をポルノ映画館に連れて行く。デートだから場末のいつもの店ではない、ちょっと高級な映画館だ。でもポルノ。憤慨した上映中にベッツィは映画館から飛び出す。悲しいかな、トラヴィスはデートにふさわしいアミューズメント施設がなんなのか、まったくわからなかったのだ。そしてトラヴィスはベッツィが怒った理由も理解できない。
「結局、ベッツィもほかの女どもと同じだ。冷たくてよそよそしい。奴らはまるでつるんでるみたいだ」
「非モテ」の孤独がここにある。
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の田西は酒の席の約束により、可愛らしい後輩女子ちはるにエロDVDを貸す。しかし手違いにより中身は獣姦ものだった(ドン引き)。その後田西は「何もしない」約束でちはるとラブホテルに入り、何もしないはずもなく襲いかかって泣かれてみたりして、空気の読めなさぶりを発揮してみる。田西がトラヴィスほど痛々しくないのは、当のちはるも恋愛初心者であり、それなりに痛い女子だからであろう。
【ナチュラルにストーキング】
トラヴィスの女性へのアプローチは基本的にストーキングである。いい女と見るや、車のスピードを落とし、運転席からじっと見つめる。ほかのやり方を知らないのだ。ベッツィに手ひどくフラれてからも彼女に何回も何回も電話をかけ、しまいには職場に押しかける。相手の気持ちに頓着せず、自分の思うがままに行動する。
しほとのあれやこれやでちはるにフラれた田西は、夜の秋葉原でアダルトショップに入ったちはると青山(らしきふたり)を見かけるや否や、矢も楯もなく後をつけてみる(その後、自らのストーキング行為をちはるに告白する! というオマケつき)。相手がどう思うかはまったく関係なく、自らの心のおもむくままに行動するのが「非モテ」流である。
【空回る闘争心】
トラヴィスは身を切るような孤独を憎しみに転化させる。ベッツィにフラれた後、彼は銃を買い、自らの肉体を鍛え始める。トラヴィスが妄想する「人生の目的」はきちんと語られることがない。トラヴィスが何をしたいのか、何を求めているのか、映画の観客にはさっぱりわからない。孤独から心を病んだ人間の姿がそこにあるだけだ。バランタイン大統領候補を狙う理由も、ヒモに売春婦をさせられている家出少女を救い出さなければならない理由も特にはない。夜の街を流すトラヴィスにいちどは助けを求めた家出少女アイリスだったが、「あの時はラリってたから」と後の会話で行動は否定されている。また、アイリスがヒモに一方的に食い物にされているわけでもない。利害関係を伴った男と女の関係があるだけだ。「非モテ」であるトラヴィスにはそれが理解できない――
一方、田西は「傷ものにされた」ちはるのため、青山に決闘を申し込む。しかしその決闘はちはるの望むものではない。青山の本命(ちはるは遊び相手)である長谷川の言うとおり、青山とちはるの関係の外で部外者である田西が勝手に空回っているだけだ。トラヴィスは行き場のない孤独を暴力として噴出させたが、田西は「モテ」に対する複雑な感情を闘争心として爆発させる。あくまで「モテへの」複雑な感情であり、ちはるへの愛情(も多少はあるだろうが)とはまた別であることは「決闘は迷惑」という当人ちはるの感情を度外視して決闘に臨んでいることからも確かである。トラヴィスも田西も、自らの行動を客観視することなく、主観世界に生きているのは同じである。
バランタイン大統領候補を暗殺に向かうトラヴィスは、何を思ったか頭をモヒカン刈にする。モヒカンは戦闘開始の合図だ。あまりにも怪しすぎる風体に、あっという間に大統領候補のSPに目をつけられる。射撃の訓練、完全武装、すべてが一瞬で水泡に帰した。何をしたいのかさっぱり意味がわからない。
青山との闘いに臨む田西も、気合を入れるためトラヴィス同様、頭をモヒカン刈にする。はたして田西と青山の決闘は無事に行われるのだろうか?
トラヴィス同様、頭をモヒカンにする田西。タクシーはないので自分で走っていく。©花沢健吾『ボーイズ・オン・ザ・ラン』小学館ビッグコミックスピリッツ連載中
【田西の向かう先に光はあるか?】
「非モテ」の抑圧された感情が爆発するという点において『タクシードライバー』と『ボーイズ・オン・ザ・ラン』は共通である。しかし、田西はトラヴィスほど孤独ではない。出口なしに突き進んでいくトラヴィスと、田西が向かおうとする先はやはり別の方向のように思える。たしかに田西は多くの点でトラヴィスだが、作者である花沢健吾は田西をトラヴィスにしようとは考えていないはずである。田西はトラヴィスとは違う場所に着地することができるのだろうか? 同じ「非モテ」の暴走、空回りを扱った作品として、田西の向かう先には興味が尽きない。
【新コミダスワードは「純愛」】
次回からのキーワードは「純愛」。『赤灯えれじい』(週刊ヤングマガジン連載中)、『単車野郎』のきらたかしさんに、「純愛」について、いろいろとお話をうかがってきました。お楽しみに!]]>
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